三輪(miwa)

能「三輪みわ」から三輪明神みわみょうじんです。

場所   

三輪山中(奈良県桜井市)、大神神社

役名

前シテ  女
後シテ  三輪明神
ワキ   玄賓僧都げんぴんそうづ

あらすじ

大和国三輪の里に玄賓げんぴんという僧が住んでいました。

玄賓の庵に、閼伽あかの水(仏に供える水)を汲んで毎日訪ねるがいます。

玄賓が不審に思い、名前を尋ねようと待っているところへ今日もその女性がやってきました。

晩秋のある日、女は玄賓に「夜も寒くなってきたので、衣を一枚ください」と頼みます。
夜寒をしのぐ衣を玄賓から授かった女は、自分は三輪の里に住む者だと名乗ると、杉の木を目印に訪ねて来てほしいと告げ姿を消しました。

その日、三輪明神にお参りした里の男が、ご神木の杉に玄賓の衣が掛かっているのを見つけ、玄賓に知らせます。
実は先刻の女こそ明神の化身であったのです。

玄賓がその神木のもとへ行くと、自分の衣が掛かっており、歌が縫い付けてあるのを見つけます。

そのとき、杉の木陰から美しい声がして、女体の三輪の神が現れ玄賓に感謝を述べます。
三輪の神は玄賓に神も衆生を救うために迷い、人と同じような苦しみを持つので、罪を救ってほしいと頼みます。

そして三輪の里に残る、神と人との夫婦の昔語を語り、天の岩戸の神話を語りつつ神楽を舞い、

やがて夜明けを迎えると僧は今まで見た夢から覚め、三輪明神は消えていきました。


三輪山説話


三輪は奈良県桜井市の三輪の里、そして大神神社が舞台になっています。

三輪山(Wikipedia)

大神神社は大和国一宮で、三輪山全体がご神体とされている神社です。
山を神体として信仰の対象とするため、本殿はありません。

こうした自然崇拝の考え方は古神道の流れに大神神社が属していることを示しています。

神社の社殿が成立する以前の神祀りの様を今に伝えており、日本で最古の神社とも呼ばれます。

拝殿前の縄鳥居(Wikipedia)

大神神社HP
https://oomiwa.or.jp/

主祭神は大物主大神(おおものぬしのおおかみ)、
大己貴神 (おおなむちのかみ)と少彦名神 (すくなひこなのかみ)もお祀りされています。

古事記の中では三輪山が神の鎮座する山(神奈備山かんなびやま)とされます。
能の話の題材になっているものとして三輪山にまつわる神婚説話というものも見られるそうです。

“「夜な夜な活玉依毘売いくたまよりびめのもとに男が通い、ついに姫が身ごもる。
男の素姓を怪しんだ両親は、麻糸を通した針を着物の裾に刺させる
翌朝、糸をたどっていくと、それは三輪の神社まで続いており、男の正体が神であったと知る。」

『日本書紀』では、毎夜倭迹迹日百襲姫やまとととひももそひめに通ってくる男に姿を見せよと求めると、翌日、櫛笥くしげの中でとなっていた。
本性を見られた男は三輪山に登るという話が箸墓伝説と結合してみえている。” (コトバンクより)

能の中では、

大和の国に仲睦まじい夫婦がいたが、男は夜しか女のもとを訪ねない。
女は男にその理由を尋ねると男はもうここに通うのはやめようと言って立ち去る。
女は別れの寂しさに苧環の糸に針を付けて男の裾へ刺して後を追った。
長い糸を辿ってゆくと杉の木についており、女はこれが夫の姿かと驚き悲しんだ。
その糸巻きに三巻き糸が残っていたので、この地を「三輪」と呼ぶようになった。

と三輪明神が話しています。


三輪明神

三輪明神は男神なのですが、不思議なことに能の中では巫女の姿に烏帽子と男装した女性の姿で登場します。

これは、女神とする説もある為だそうです。

大物主大神(三輪明神)は大国主神の和魂にぎたま(神道における概念。神の霊魂が持つ2つの側面のこと)であるとされています。

能「三輪」の中では
「思へば伊勢と三輪の神 一体分身の御事 今更なにと磐座いわくらや」
とあるように、元は三輪の神(大物主大神)と天照大神は一体の神で、二つの身に分けてそれぞれ出現したのだと明かしている場面があります。

後半では三輪山の説話の後に、

「天照大神の不在は、常闇の世界をもたらした。そのとき岩戸の前で神楽をはやすと、闇となったこの世界に、神遊びの声が響き渡る。その声に感応した大神は遂に岩戸を開き、こうして世界に光が復活したのだ…」 
と述べて神楽を舞い、天の岩戸の神話を再現してみせています。

天照大神と名前は出てきますが、神楽を舞っている場面はアマノウズメとして、最後の場面で天照大神と代わっていくので混乱します(笑)

不思議なお話ですが、神々しさの漂う神秘的な能です。


装束等について

能面は泣増なきぞうとういう憂いを含めている女性の面をモデルに描いています。

上はいつも女性のお役が着ている長絹ではなく、単狩衣ひとえかりぎぬとよばれる装束です。

真っ白の狩衣に中の装束も白に近い摺箔でとても神秘的な雰囲気に見えます。

柄は鳳凰の丸紋と、きりの紋などです。

下には緋大口を付け巫女の姿のようです。

頭には金の風折烏帽子かざおりえぼしを被っています。これが男性を意味するそうです。

持物は御幣ごへいです。以前「巻絹」の時にも巫女の役だったので登場しています。

背景には大神神社の鳥居の注連縄しめなわと、御神木の神杉かみすぎから連想して白蛇と杉の葉を入れてみました。

また、後ろの太陽は天照大神を意識して描いています。

私自身、三輪神社の雰囲気や白蛇さん(大神神社で蛇は「さん」と親しみを込めて呼ばれており、福徳をもたらす霊威として崇められているそうです。)がとても好きなので描くのを
楽しみにしていた演目でした。

神々しい雰囲気が表現出来たと思いますので、満足です。


コメント

タイトルとURLをコピーしました