芭蕉(basho)



能「芭蕉ばしょう」より、芭蕉の精です




あらすじ

中国 楚の山中で修行するは、毎晩経を読んでいる時にいつも何者かの気配がするのを気にしていました。

季節は秋の半ば。ある日姿を現したのは、一人の女でした。
女は結縁のために来たと明かし、草木までもが成仏するという法華経の教えに帰依します。

「美しく咲く草花こそ仏法の姿」

僧が草木も成仏できるという法華経の教えを語ると女は喜び、草木成仏について自らも詳しく語り出します。

やがて女は自らが”芭蕉の精”であると仄めかして消え去りました。

やがて夜も更け、先刻の女が再び現れます。

彼女は自らを芭蕉葉の精だと明かすと、仏法の慈雨に浴する身を喜び、土も草木も“ありのまま”こそが真実の姿だと述べます。

美しく咲く春秋の草花に引きかえ、風に破れやすい芭蕉の葉のもろさ、はかなさを嘆き、日陰の身として生涯を送る自らの生きざまを明かした彼女は、月光の下で静かに舞の袖を翻します。

しかしやがて、吹きつける風に庭の草花は移ろいゆき、あとには破れた芭蕉だけが残るだけでした。


芭蕉ばしょうについて

演目の季節は。舞台は楚国の湘水しょうすい中国が舞台の話です。

今までにも「杜若」や「藤」で花の精を描きましたが、
今回は「芭蕉」という大きな葉を持つ植物の精です。

前2つの演目の花と違って、芭蕉自体をご存じではない方もいらっしゃると思います。

芭蕉」←Wikipediaに飛びます。(画像使用できず)


中国原産の植物で、高さは2〜3mで更に1〜1.5m・幅50cm程の大きな葉をつけます。
花や果実はバナナとよく似ていて、英名はJapanese banana-ジャパニーズバナナ-」。

琉球諸島では、昔から葉鞘の繊維で芭蕉布を織り、衣料などに利用していたそうです。
暖かい地方でよく育てられているそうなので、あまり馴染みのない植物です。

私は「芭蕉」と聞いてパッと出てきたのが「水芭蕉」でした(笑)
因みにこちらの水芭蕉は「リュウキュウバショウ(上の芭蕉に似ている)」という植物の葉に似ている事からこの名前が付いているそうです。


この芭蕉の精霊が主役となっているこの演目ですが、

中国の『湖海新聞夷堅続志こかいしんぶんいけんぞくし』には芭蕉の精が人の姿に化ける怪異譚があるそうで、この能はこれを題材として作られたものとされているそうです。

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より「芭蕉精」

まるで妖怪のような見た目です。
能の中に登場する、物悲しさや儚さ漂う芭蕉の精のイメージとはかけ離れていて驚きました(^-^;

江戸時代から芭蕉の怪異については文献もあったそうですが、琉球では芭蕉から繊維を取る為に何里にもわたって植えられていました。

夜更けにその間を通ると異形に合うと恐れられていたそうです。
詳しい伝承については上の作品名リンクからご覧になってみてください。

想像すると結構怖い伝承でした(^-^;


能の中の芭蕉


この演目は三番目物(鬘物)の中でも、とても内容が難しい曲です。

謡本にも「どこまでも位を静かに、調子をおさめて謡うように」と書いてありました。

上演時間も2時間という大曲で、観る側の事を考えても初心者向けではない演目です。

(私なんかは途中で気持ちよく眠りそうです(´▽`)←)

内容を少し見ていきます。

芭蕉の精は、成仏を望んで僧の前に現れます。
僧に語る中で、上のあらすじから抜粋すると「美しく咲く春秋の草花に引きかえ、風に破れやすい芭蕉の葉のもろさ、はかなさを嘆き」とあります。

他にも色々と重ねている部分はありますが、これは「芭蕉」という植物の特徴を例えに出しています。

芭蕉の葉は初夏に若葉を出し、夏に茂った姿が見られます。
しかし秋風が吹くころには、葉が葉脈に沿って裂け、風雨にさらされ「破芭蕉やればしょう」と呼ばれる姿になり、
更に冬を迎える頃には、枯れ果てた葉が茎に垂れ下がる「
枯芭蕉かればしょう」と呼ばれる姿に変わってしまいます。

⇓こちらは破芭蕉。枯芭蕉の姿は検索すると出てきますが、

全部の葉が枯れて垂れ下がり、かなり無残な姿です。


この、”芭蕉”や”破芭蕉”は季語とされ、有名な松尾芭蕉をはじめ、俳句にも多く詠まれてきました。

芭蕉の枯れた姿が哀れさを思わせるので、季語として使用されてきたそうです。

芭蕉の精が僧の前に現れた時、なぜ女の身となって現れたのかを問うと、

”儚い芭蕉がこの姿になった為に 衣も薄く、花染衣はなそめごろものように色は変わらないが破れやすく、袖のほころびも恥ずかしい”

(訳が正確ではないかもしれませんが)、こういった内容で芭蕉の精は答えています。

花染衣は花見の時に着る晴れ着のようなものになります。
綺麗に見えても薄くてすぐに破れてしまいそうに脆いと表現しているのだと思います

内容がとにかく難しいので、私も完全には理解できていませんが。。
この能は、芭蕉の精が女の身となって、芭蕉という植物を体現しているところに素晴らしさがあるそうです。

確かに女性の姿なのに、能を観ていると芭蕉に見えて来てしまうのかもしれません。
そんな不思議な面白さがある能なのかな?というのが現時点での私の感想です。

舞は「序之舞じょのまい」という舞が入ります。
これが初心者からするとと---っても長いです。
凄くテンポがゆっくりで、公演によって長さも省略があったり正式に5段あったりなのですが、とても眠くなりやすいです(笑)

3番目物の精霊やシテが舞います。
こんなにゆっくりな舞があるのか。。。と思うかもしれませんが、途中から次第にテンポも上がってきます。
芭蕉は初心者向けではないですが(´▽`)、羽衣などで是非見てみて頂きたい舞です。


装束について

上には長絹ちょうけんを着けています。
胡蝶や羽衣、杜若、藤などと一緒の装束です。
薄手の絽の生地に金糸や色糸で文様を織り出しています。

今回は長絹に一番拘りました。
初めて渋めの色で描くからというのもありましたが、
芭蕉の謡のなかで
今宵は月影も白く、着物も氷の衣や霜の袴のように見える」という詞章があります。これを読んだ時に、月の光が差し込んで色が透き通るような、そんな生地の質感を出したいと思いました。

実際にはもっともっと地味な色が多いんですが、月と合わせるのにコントラストが強すぎたので今回は明るめの芭蕉に近い色にしました。

模様は蔦唐草に、秋草の柄が入っています。

下は白や薄い灰色に近い袴ですが、少し絵的に面白くなかったので柄を入れてみています。

能面は「曲見しゃくみ」という面がモデルです。

胡蝶や杜若では若い女の面ですが、芭蕉は中年女性ぐらいの役どころです。
眉が薄めで紅の色が暗めだったり、目元や口元も少し下がり気味の面で、華やかで可愛らしい女性とは違った面です。
長絹との色調整が難しく、少し瞼に黄緑を入れています。
まだまだ表現するには難しい面です。

背景には所々に芭蕉を盛り込みたいというのは決まっていたので、
月明かりと、芭蕉の葉とススキや萩などの秋草を入れました。
何で蓮があるのか?と思われるかもしれませんが、これは話の中で仏法を説く場面が色々と出てくるのでそのイメージからです。
良いアクセントになったかなと思います。

いつもは大体CLIPSTUDIOのみですが、今回はクリスタ→Photoshop→クリスタと謎の工程で完成しました(笑)

描いたのは、自分の破れやすい衣を恥ずかしいと手繰り寄せていた場面です。



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