羽衣(hagoromo)



能「羽衣はごろも」より、天人てんにん(天女)を描きました。




羽衣のあらすじです


三保の浦で海に漕ぎ出していた漁師の白龍はくりょうたちは、春になった美しい三保の松原の景色を嘆賞しつつ、その三保の松原に戻ってきました。


すると虚空より花が降り音楽が聞こえ妙なる香りが立ちこめます。


これはただ事ではないと思っていると、松に美しい衣がかかっていました。


家宝にするため持ち帰ろうとした白龍に、天女が現れて声をかけ、その羽衣を返して欲しいと頼みます。


白龍は最初は聞き入れず衣を返そうとしませんでしたが、
衣が無ければ飛ぶ事もできず、天上に帰る事ができないと悲しむ天女の姿に心を動かされ、天女の舞を見せてもらう代わりに衣を返すことにしました。


天女は喜び、舞を舞うことを約束しますが、衣を着ないと舞えないので先に衣を返して欲しいと告げます。


白龍は、先に衣を返せば舞を舞わずに帰るつもりであろうと天女に言いました。


しかし天女から、そのような疑いは人間界のものであり、天には偽りは無いと諭されます。


白龍は、恥ずかしい事を行ってしまったと思い、衣を天女に返しました。

羽衣を着た天女は、月宮殿げっきゅうでんでは舞の奉仕をする乙女の一人である事を明かし、この舞が後世の東遊あずまあそびの駿河舞するがまいになると言います。


天女は、三保の松原の春景色が天上界のようであるといい、その美しさを讃え、東遊びの舞の曲を次々と舞います。


そうして国土の繁栄を祈念し、

様々な宝物を降らし国土に恵みを施しながら、富士の高嶺に昇り、

かすみの中に姿を消してゆくのでした。




風土記の羽衣伝説が題材となっているそうです。

また、「羽衣」とは天女が纏っている、空を飛ぶことが出来る不思議な布の事です。

羽衣の舞台は、駿河国の三保松原みほのまつばらになります。


現在の静岡県静岡市清水区の三保半島にあります。


松原と言われるだけあり、全長7kmに渡り松林が海岸線に茂っており、富士山や伊豆半島を一望できます。
松林は5万4000本にもなるそうです。
その美しさから、「日本新三景」「日本三大松原」として国の名勝に指定されています。

この2つをそもそも知らないよという方はこちらで詳しく載せて下さってます(日本旅マガジン様)↓

日本新三景(新日本三景)とは!?

日本三大松原とは!?

この謡曲「羽衣」だけではなく、
昔から浮世絵や万葉集などの和歌の題材ともされてきました。


羽衣の松



静岡県静岡市清水区三保にある、羽衣伝説ゆかりの「三保大明神」として知られる御穂みほ神社があります。

御祭神として大国主大己貴命おおなむちのみこととして知られる三穂津彦命みほつひこのみことと、三穂津姫命みほつひめのみことを祀られ、
芸能の神、大漁豊作・商売繁盛の神とされています。

参道である約500mの松並木は「神の道」と言われ、その先に「羽衣の松」と呼ばれる松があります。
天女が舞い降りてこの松に羽衣を掛けたという伝説が伝わっています。


「 この地に降り立った天女が、羽衣をこの松に掛けて
水浴びをしていたところ、漁夫白龍に羽衣を奪われてしまう。
返して欲しいと懇願する天女を憐れに思い、
白龍は、羽衣を返すかわりに天人の舞を見せて欲しいと頼む。
天女は羽衣をまとい、舞を舞いながら空へと戻っていくのであった。

初代の松は大噴火で海に沈んでしまい、二代目は立ち枯れ、この松は三代目の羽衣の松になるようです。

三保松原は、常世の国から神を迎える御穂神社の鎮守ちんじゅもりとされ、現在まで大切にされてきています。

( 鎮守ちんじゅもりとは、神社に付随して境内やその周辺に神殿や参道、拝所を囲むように設定・維持されている森林の事です )

しかし、シロアリによる松枯れや、工事などにより土砂のバランスが崩れることによって起こっている海岸浸食の危険に現在も侵されており、このまま浸食が進むと海岸が消失する恐れもあるようです。


対策も色々講じられておられますが、何とか守られて欲しい場所だと思います。



天人(天女)の言葉


曲中で男が羽衣を返してくれないと嘆いている天女を哀れに思い、天女の舞を見せてくれたら羽衣を返そうと天女に言います。

天女は舞を舞うことを約束しますが、男は羽衣を手渡したら舞を舞わずに帰ってしまうのではと疑ってしまいます。

その男の疑いの言葉に対して天女は

「いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを」と毅然と言います。

 疑うという行為は、人間の世界のものであって、天上界には偽るということはない。

という意味合いになりますが、

この言葉に白龍は、自分が疑いの心を持った事を恥じて天女に衣を返すことになりました。



この能の中で伝えたいと思われる大切なメッセージの一つです。


疑う事はある意味自己防衛ですので、詐欺や犯罪が多い現在では一概に悪い行為だとは言えません。

ですが、「疑う」という事は神々や天人などから見ると、

良くない心、汚れた思いなのだと、この天女の言葉から感じました。

仕方なく疑いの心や、心を偽るという行為を選ぶ事がほとんどだと思いますが、

あまりそちらに傾き過ぎないよう、気を付けないといけないなとこの言葉から考えさせられました。



見どころ

羽衣は、内容的にも分かりやすく、最後の場面では天人(天女)が国土を祝福し宝を降らすというめでたい結末で、
明るくめでたいお話なので人気の演目です。

天女が天に昇っていく場面では、愛鷹山あしたかやまから富士山の高嶺たかねへと段々目線が上がっていき、

最後には霞に紛れて更に上へ登っていったのだという様子が表現されており、

とても美しい情景が自然と浮かんできて素晴らしいです。
(これは習った時に先生に教えて頂きました(笑))

最後の詞章の抜粋です↓


時移って 天の羽衣
   浦風にたなびきたなびく
     三保の松原浮嶋が雲の

愛鷹山(あしたかやま)や
        冨士の高嶺

かすかになりて 天つみそらの
      霞に紛れて 失せにけり


羽衣では、

天女頭に被る天冠は鳳凰牡丹の花も使用されます。

そちらも華やかで素敵ですが、まずは月の形で描きました。
能の中でも天人は月の宮人みやびとと出てきてますので..(*´▽`*)
鳳凰の天冠は以前西王母せいおうぼで描いています。

次に長絹ちょうけんですが、白か朱の色が多いです。
羽衣と言ったら白のイメージなので白にしましたが、ちょっとベージュに近い色味になってしまいました。

白の表現はちょっとした事で味気なくなってしまうのでとても難しいです。課題になりました。

柄は鳳凰ほうおう柄に唐草模様からくさもようあおいです。

鳳凰は想像上の瑞鳥で、名君が出て天下太平の時に現れると言い伝えがあります。
中国では古代より龍、麒麟、亀、鳳凰をめでたいときに現れる天の使い「四瑞しずい」と呼び、尊びました。
日本の鶴と同様に慶事を象徴する瑞鳥です。

葵は太陽を仰ぐことに由来して、好機好転を表現する縁起のよい植物です。
唐草は曲線を描いた葉と蔓が絡み合った様子を描いた柄です。
どこまでも蔓が伸びる様子を描いているため強い生命力の象徴ともされています。

おめでたい尽くしの文様ですね。

扇は「天女扇」という鬘扇かづらおうぎを参考にさせて頂いてます。

桜と側を流れる流水が綺麗な扇です。



背景は春の三保の松原の景色と、天人が住むという天上界を融合させたイメージで描いてみました。

能舞台に作り物として置かれる松を入れるべきかと迷いましたが、どうしても現実感が出てしまい、今回描きたかったイメージには合わなかったのでやめました。

長絹にも描かれている鳳凰の模様を天女の頭上に配置してみました。

今回かなり背景のイメージに時間を要してしまい、

試しに配置してみただけだったのですが、偶然にも合い、作品の風格が上がったように感じました。

天女なので、綺麗や可愛いといったイメージだけではなく、清らかで神々しい美しさを目指して制作しました。


能の作品を描かせて頂いてから20作目、納得のいく作品が出来、自分でも嬉しく感じています。


ここまで読んで頂きありがとうございました。




コメント

タイトルとURLをコピーしました