班女(Hanjyo)


能「班女はんじょ」より、シテの野上のがみの遊女・花子はなごです




登場人物

前シテ  遊女-花子
後シテ  班女-花子
ワキ   吉田少将
ワキツレ  吉田少将の従者2~3人

場所
 
【前半】

美濃国 野上宿のがみのしゅく  〈岐阜県不破郡関ヶ原町野上〉

【後半】

京都 下鴨神社 ただすの森  〈京都市左京区下鴨〉

季節 ・・・ 秋 晩夏ないし初秋 /四番目物、略三番目


あらすじ

美濃国野上の宿に、花子はなごという遊女がいました。

ある時、吉田少将という人が東国へ行く折に投宿し花子と恋に落ち、お互いに扇を交換して将来を約束して別れます。
それ以来、花子は少将を想って毎日扇を眺めて暮らし、宴席の勤めに出なくなります。
見かねた宿の長者は彼女を宿場から追放し、花子は流浪の身となってしまいます。

その後、吉田少将は再び野上の宿を訪れますが、花子がすでにいないと知り、落胆します。
失意のうちに京の都へ帰った少将は、糺ノ森ただすのもり下賀茂しもがも神社に参詣します。
その場に、偶然にも心乱れた花子が現れます。
宿を追い出された花子は、少将に恋焦がれるあまり、狂女の班女はんじょとなってさまよい歩き、京の都にたどり着いていたのです。

恋の願いを叶え給えと神に祈る班女に少将の従者が声を掛け、面白く狂って見せよといいます。

彼女は参詣客たちに囃し立てられるまま、愛しい人を慕う心を吐露し、形見の扇への思いを語って謡い舞います。
扇を操り舞うほどに心乱れ、班女は逢わずにいればいるほどつのる恋心を顕わにして、涙にくれます。

それを見ていた少将は班女の持つ扇が気になり、扇を見せるよう頼みます。

黄昏時の暗い中、少将と花子はお互いの持つ扇を見て、捜し求めていた恋人であることを確かめて再開を喜び合うのでした。

班女と花子

「花子」という名前があるのになぜ「班女」なのか?と思われると思いますが、

これは中国・前漢の時代に成帝の寵妃であった班婕妤はんしょうよという女性に例えているそうです

《 班婕妤…趙飛燕ちょう ひえん(前漢成帝の皇后)に寵愛を奪われたことから、秋には捨てられる夏の扇に自らをたとえて嘆いた詩「怨歌行えんかこう」を作った。以来、捨てられた女のことを秋の扇と呼ぶようになったといわれる 》

この能の中では、この故事をもとに、離れ離れになった遠くの恋人を想い扇を眺め暮らす花子にあだ名がつけられています。


真念寺・班女の観音堂

この能の典拠は不明とされていますが、班女に関連した史跡で真念寺の班女の観音堂があります。

班女の後のエピソードになりますが、
その後、花子の子供は病死してしまい、その供養の為野上の観音山に観音像を祀ったと伝えられているそうです。しかし、花子を弔う塚は野上には無いとのこと。

我が子が病死してしまうという悲しい話ですが、
この言い伝えから、「野上の宿の花子」は実際に実在した人物である可能性も伝わってきます。

真念寺・班女の観音堂(関ケ原観光ガイド)


下鴨神社(賀茂御祖かもみおや神社)

花子が野上の宿に居ないと知り、失意の念の中吉田少将が参詣した神社

この下鴨神社の糺の森の中で、花子と吉田少将は再会を果たします。

楼門(重要文化財)


京都、山城国一宮・下鴨神社
正式名称は「賀茂御祖神社」で、良く知られている「下鴨神社」は通称なんだそうです。

創建年代は不詳とされていますが、崇神天皇の七年(紀元前90年)に神社の瑞垣の修造がおこなわれたという記録があり、それ以前の古い時代から祀られていました。

御祭神は、賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)と玉依媛命(たまよりひめのみこと)です。

賀茂建角身命は日本神話に登場する神様で、山城国の氏族、賀茂氏の始祖であり、

別名には八咫烏八咫烏鴨武角身命(やたからすかもたけつのみのみこと)とも呼ばれるそうです

本殿には、右に賀茂別雷命(上賀茂神社の祭神)の母の玉依姫命、左に玉依姫命の父の賀茂建角身命が祀られているので「賀茂御祖神社」と呼ばれているとの事。

後半の舞台である「糺の森」は、この神社の境内にあります。

賀茂川と高野川の合流地点に発達した原生林で、
およそ12万4千平方メートル(東京ドームの約3倍)の面積

下鴨神社全域が世界遺産に登録されています。

瀬見の小川

厳かなで神聖な雰囲気が伝わってきます。


糺の森の写真:京都フリー写真素材様よりお借りしました

下鴨神社公式ページ



能のみどころ

この「班女」は、前半後半と役の変わらない実在する人物が登場する現在能と呼ばれる分類です。

後半に姿を見せる時、花子は唐織からおりの右肩を脱いでいます。

これは少将に恋焦がれて流浪の身となった花子が、狂った様子(狂女)をあらわしているそうです。

前半・後半を通してを用いた舞や細やかな所作が見どころの演目です。



装束について



頭は鬘に鬘帯、能面は増女です。

天女や精霊などの役を演じるときにも用いられます。

上から右肩を脱いで付けているのが唐織です。
形は室町の頃の小袖や打掛と呼ばれる着物と似ています。

この右肩を脱ぐ形の着付は「唐織着流女出立」と呼ばれるそうです。
紅入(いろいり)唐織の、紅白の段が地になった物を参考に描きました。
柄にはこの班女でテーマとなっている「扇」(名前では檜扇という柄になります)と、
以前に「楊貴妃」で使用した楫の葉などの模様をリメイクした物、
そして夕顔の花の柄を添えてあります。

地の金のモチーフ柄はお借りした素材から。良い重厚感の表現を手助けして頂けました。

中に着ている摺箔は、観世水の柄を入れました。白の表現は難しいな~と、この作品でも感じました。

扇の花は「夕顔」かと思いきや「鉄線花(テッセン)」です。

左:夕顔  右:鉄線花


能の中でも花子の扇には夕顔の絵が、少々の扇には月の絵がそれぞれ描かれているとあるので夕顔かと最初は思っていました。

夕顔の花言葉:『はかない恋』『夜の思い出』

鉄線花の花言葉:『精神の美・心の美しさ』『甘い束縛』『縛りつける』『高潔』

扇と夕顔の組み合わせ源氏物語にちなむもの、
鉄線花は、固い蔓を持つことから、強い結び付きを意味した吉祥紋と言われてます。

観世流だと菊の花の扇になるそう。流派によって違うのも不思議です。

背景には、扇と夕顔をメインに、糺の森のイメージから木々を描いてみました。

重すぎず、華やか過ぎず、良い雰囲気で描けたと思います。


コメント

  1. 芋野ようかん より:

    こんにちはいも!
    扇は流派で花が違うというのも、風流ですねえ

    • eisuieisui より:

      いものさん!コメント感謝です(*^^*)
      装束も扇も流派で色々違うのも面白いですよね
      謡い方や舞、所作も少しずつ違うので(見極めが難しいですが)そこが同じ演目を観に行っても楽しめるところでもあります~!

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