土蜘(Tsuchigumo)

能楽「土蜘つちぐも」から、後シテの土蜘蛛の精を描きました。




土蜘のあらすじです。


京都の治安を守る、武勇に名高い源頼光は、最近体調がすぐれなかった。

そこで侍女の胡蝶は薬をあつらえてもらい、頼光のもとへ届ける。

頼光の従者の取り次ぎもあって胡蝶は頼光と面会するが、頼光は弱音を吐くばかり。

その夜頼光がひとり休んでいると、怪しげな僧が現れ、病気というのもみな我がなす業であると告げる。よく見るとその姿は蜘蛛の化け物であった。

あっという間もなく千筋(ちすじ)の糸を繰り出し、頼光をがんじがらめにしようとするのを、頼光は、枕元にあった源家相伝の名刀、膝丸(ひざまる)を抜き払い、斬りつける。

すると、法師はたちまち姿を消してしまう。

騒ぎを聞きつけた頼光の家臣・独武者は血の跡を見つけ、軍勢を従えて追ってゆくと、葛城山中の古塚に行き着いた。

軍勢が塚を崩すと、蜘蛛の精が正体を現し、軍勢を散々に苦しめるが、軍勢の奮闘によって遂に討ち取られるのであった。






源頼光みなもとのよりみつ



平安時代中期の清和源氏せいわげんじの棟梁で、鬼退治で有名です。よりみつではなく、「らいこう」とも呼ばれます。

源頼光には頼光四天王と呼ばれる優秀な4人の従臣がいます。

                            源頼光と四天王(歌川国芳画)



渡辺綱わたなべのつな
頼光四天王の筆頭とされる渡辺綱は、京都の一条戻り橋の上で鬼の腕を切り落とした話が有名。

坂田金時さかたのきんとき
坂田金時は童話に出てくる金太郎の成人した姿である。

碓井貞光うすいのさだみつ
身の丈7尺(約2m)の大男。四万温泉の開湯伝説や、十一面観世音菩薩の加護で碓氷峠の大蛇を大鎌で退治した。

卜部季武うらべのすえたけ
弓の名手。姑獲鳥の赤子をあやしたり、勤務中に盗まれた髭切(膝丸との兄弟刀)を滝夜叉姫から奪い返す物語がある。


坂田金時については実在した人物かどうかは少し怪しいところがありますが…(´▽`)
この4人が活躍した話では、
この能の題材である土蜘蛛退治や、
御伽草子などで知られる大江山での酒呑童子退治
などのお話が特に有名だそうです。

頼光自身は、 藤原道長の権力絶頂期の頃の人物で、道長などの藤原氏に仕えていました。

残されている資料の限りでは貴族的な生活を送っていたとされるそうですが、説話の中では武勇的人物として扱われることが多いようで、真実は分からないようです。

実際の武勇は部下の功績だったとも言われています。





土蜘蛛について解説します。

皆さんも妖怪の土蜘蛛は何となく知っている方も居るのではないでしょうか??
巨大な蜘蛛の化け物で、いかにも妖怪といった姿です。

              『土蜘蛛草紙絵巻』


しかし土蜘蛛の事についてよくよく調べてみると、妖怪と伝えられたのは中世に入ってからの事で、元は土着民族(土豪どごう)の事だっただそうです。

土豪
(豪族のような大きな領土を支配する領主・大豪族に対し、特定の土地を支配する小さな豪族の事。)

「つちぐも(土蜘蛛・土雲)」とはもともと、天皇への恭順を表明しない土着の豪族などに対する蔑称として用いられていた言葉です。

日本書紀や風土記などでは、
「狼の性、梟の情を持ち強暴」
「山野に石窟・土窟・堡塁を築いて住んでいる」
「身短くして手足長し、侏儒しゅじゅ(ひきひと・一寸法師)と相にたり」
「脛の長さは八掬、力多く太だ強し」

“脛の長さが八掬”が分かりづらいのですが、
「八掬脛(やつかはぎ)」という言葉があります。
調べた限りでは握りこぶし8つ分の脛の長さ…という意味に取れるそうです。

つまり気性が荒く、洞窟などを築いて生活し、一寸法師のように背は小さいが手足は凄く長い人々という事でしょうか?

時の天皇に歯向かう勢力なので邪魔だったのか、異形の存在として描写されている事が非常に多かったようです・・・。

しかし同じ生身の人間を従わないからと言ってこのように蔑むのは嫌な気持ちになります。


王権に従わなければ殺される、というのは昔からよくあった事かと思いますが、
この土蜘蛛退治はその差別された人々(土雲)が殺された事を、王権側が体裁を保つために「化け物退治」にすり替えて出来た話とも取れます。

隠された歴史ですね。

現代にも言える事だと思いますが、
どちらが悪者なのかな・・・と思わず考えてしまいました(@_@;)






能「土蜘蛛」のみどころ

土蜘蛛は私が初めて能を観に行った演目で、初めて観た時はそれはそれは驚きました!

最後の土蜘蛛退治の場面、次から次へと土蜘蛛役のシテの手から糸が四方八方へ飛んでいきます。

飛び方も糸が手から離れてしまうのではなく、ちゃんと蜘蛛が糸を吐き出すかのように飛び交います。

この糸も一つ一つ和紙で手作りで制作されているそうです。
一個(糸の塊)が結構お高いのだとか…(;´・ω・)

その糸が他の演者に巻き付きながらも殺陣を舞う様子も、本当に見応えがあります。

結構な量の糸が巻き付いてるのによく動けるなぁと思いましたが、和紙で出来ているので案外簡単に千切れやすくなっているのでしょうか??

この能の中では特に派手と取れる演出や、退治物という分かりやすい話の内容もあってか子供に一番人気のようです!
(私の中でも一番人気(´▽`)←)

本当に面白い能なので、
能を見たことの無い方もまず土蜘蛛をご覧になられる事をおすすめ致します!!



今回の作品は、実はもっと妖怪を前面に出したおどろおどろしい感じにしようかなとも思ったのですが、能舞台でみる土蜘蛛は怖い姿でありながらも、妖怪の土蜘蛛とは違ってどこか風格があり、神々しいようにも見えるのでやめました。

奈良県にある葛城山に土蜘蛛の塚がありますが、

その暗い葛城山の中で糸を四方八方に出しながら戦う様子をイメージして背景を描きました。

背面にある蜘蛛の糸は写真素材を合わせてますが、手前の糸の表現が太さなどで悩み難しかったです。

能面は「(しかみ)」という面です。

危害を加える悪い鬼の役に用いる面で、顔を「しかめる」という言葉に由来してこの名前が付けられています。

上の袷法被(あわせはっぴ)は腕の部分を捲り上げることで強さを表現しているそうです。


渦巻状の紋は雷文(らいもん)、これに紗綾形が混じっています。

狩衣の下の厚板は瑞雲と龍の柄。

下の半切(袴)は鱗紋に三つ巴の雲紋。

腰帯に入っている雲に似たような文様は打板(ちょうばん)と言われます。

鎌倉時代に禅宗とともに中国から伝えられた青銅・鉄製の打楽器を模しているようで、雲板(うんぱん)とも呼ばれるそうです。



土蜘蛛は赤頭が多いですが、黒頭バージョンもあるようなので、また見つけたら描いてみたいと思います!




ここまでご覧下さりありがとうございました。






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